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昼空準備官

何年か前、深夜に散歩をしていると翅に空の写真をプリントしたような奇妙な蝶が飛んでいるのを何度か見かけたことがあった。不審に思って調べてみたところ、それは近所のアパートの2階の一室から飛んできているようだ。好奇心を抑えきれない私は、ある夜(非常識な時間ではあったが)、意を決してその部屋のドアをノックしてみたのだが…

出てきたのはこれと言って特徴のない男だった。年齢も不詳。
Anonymous と言う形容詞が頭に浮かんだ。

私:「不思議な蝶のことで…」
男:「空の蝶をご覧になったのですね」
私:「空の蝶?」
男:「正確には昼空の蝶。普通は見えないはずなんですがね」
私:「それは一体?」
男:「ここで立ち話も何ですので、お入りください」

招き入れられた6畳の部屋は小ざっぱりと整頓されていたが、なぜか窓が開け放してあった。その窓際の小さな文机の上には開いたスケッチブックが見える。男が教えてくれてた内容をかいつまんで言うと、こんな具合だ。

男(名前については秘すことにする)の職業は「昼空準備官」。
文字通り昼の空を夜の間に準備するのがその任務だ。

問題はその準備の仕方で、これが何とも不思議。
用いるのはスケッチブックと色鉛筆、たったこれだけなのだ。
もっとも、そのどちらも「特殊」なものらしい。
どう特殊なのかは秘密のようで聞くことはできなかったのだが…

とにかくそのスケッチブックにその色鉛筆で翅(や胴体)が空になった蝶の絵を描けば良いらしい。
慣れれば落書きのような簡略化したものでも空が描かれていないものでも大丈夫。
描かれた蝶は実物となって上空にまで飛んで行って、明日の昼の空の素材となるらしい。

空は広いので必要とされる蝶、それを描く係官の数も大変なもので、東京だけでも300人いて毎晩平均して150匹の蝶を用意しているという。

ここで、思わず「たったそれだけ?」と聞いてしまったのだが、後から考えると話全体の荒唐無稽さは問題にせず、細部に拘っているのが可笑しい。

とにかく私が見たのは彼らが放った蝶の姿をした空の素ということになる。

最後に男は「俄かには信じられないでしょうが」と言いながら、スケッチブックにササッと一匹の蝶を線描してみせてくれた。見る見るうちにそれに生命が宿り、最後はまるでシールのようにペロンとページから剥がれて音もなく夜の闇の中へ飛び去った。

遠くで新聞を配るバイクの音が聞こえた気がしたので、実はもう明け方近くになっていたようだ。あと少し仕事が残っているらしい男に丁寧に礼を言うと部屋を後にした。

お話はこれだけ。
その後空の蝶が見えたことはない。
ただ、仕事に追われて徹夜をしている時など、今この瞬間にもせっせと蝶を描いているであろう300人(全国では何人だろう?)の昼空準備官を想像するだけで愉快な心持になることもある。



IMG_4109-1.jpg

不思議な夜(昼空準備官)
CANON PowerShot G11


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テーマ : アートな写真
ジャンル : 写真

コメント

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No title

こんばんは~文章苦手な私、しっかり読みました・・

ん~いいんじゃないですかぁ~・・

そもそもどうして自分と言う存在がわかるのかも不思議ですよねぇ
    (^。^)

お互い楽しく生きましょう・・想像大好き、本当のことかもしれないし・・

都会の一室

J.-P.Kuakさん、こんばんは^^

人通りの少ない深夜の街を、街灯を頼りに自分の靴音を響かせて歩いていたら
別の靴音を聞いたので立ち止まり耳を澄ませてみたのだけど、その音は聞こえず
とても静寂に包まれていました。鉄道沿いの道を過ぎて、閑静な住宅街まで来ると
街中の皆が眠っている筈の時刻に、ホワッと部屋の灯りが洩れているのを発見して
その部屋を見上げてみたら、窓辺から何かがフワリと飛んで行きました。中野で見た
その光景は、おそらく昼空準備官の仕業だったのでしょう。けれども、飛んでいた蝶の
ような小さな物体は、予想も出来ない不可思議な動きを宙に描きながら、あっという間に
視界から消えてしまいました。それから尚歩き続けたのですが、僕は昼空を見ることはなく
いつまでも夜を生き続けたのでした。そして眼が覚めると、そこに現れたのはマリア様でした。
(実話です)

長くなって、スミマセン^^;

Re: No title

hidekiさん、
私も文章は苦手なんです。
それで時間がかかるんです。
無意味な文章書きながら、時々何やってんだろうっ?って思います(笑)
でも、楽しんでいただけましたら嬉しいですね^^
お互い楽しい写真と空想を!

Re: 都会の一室

はなさかすーさん、
昼空準備官に遭遇していたんですね!
今はもうしなくなりましたが、都会の深夜散歩っていいですよね。
マリア様ですか?
すーさんの体験はいつも、何か深い意味がありそうですね…

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J.-P. Kuak

Author:J.-P. Kuak
空想写真家、ノラ猫写真家、コラージュ作家。懐かしいものや鉱物も好き。

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